第4章:アトピーにも立ち向かえる、皮膚に効く14の栄養素

I:腸内環境の改善
食事の栄養バランスと量の調整ができるようになると、適切な栄養が常に体の細胞に供給されることになり、健康状態を維持しやすくなります。つまり、基本的な体力や免疫力をつけることができるということです。これをふまえた上で、はじめて炎症やアレルギー体質の改善に向けたアクションが行えると私は考えます。
●腸管だけでなく消化器系全般の健全化を目指す
食事の栄養バランスと量の調整ができるようになると、適切な栄養が常に体の細胞に供給されることになり、健康状態を維持しやすくなります。つまり、基本的な体力や免疫力をつけることができるということです。これをふまえた上で、はじめてアレルギー体質の改善に向けたアクションが行えると私は考えます。
アレルギー体質の改善に向けたアクションとしては、第二章でご説明したように、まず「腸内環境の改善」が必須であるといえます。しかし、これは単に腸管内だけをターゲットにしたものではなく、食物の消化吸収の経路全般の健全化を目指したものでなければ、充分な対策とはいえません。
そこで消化器官の各部位ごとの働きや特性、さらにそれぞれの器官の機能を促進させたり、細菌叢バランスの悪化を抑える働きをもつ栄養素や、それを含む身近な食べ物をご紹介します。
胃 〜強力な殺菌器官~
[外来物を殺菌、無害化する最初の関門]
口で咀嚼され飲み込まれた食べ物は、食道を通過し胃へと送り込まれます。胃は食べ物が入ってくると胃液を分泌します。胃液は胃酸や酵素を含んだ強い酸性の消化液で、入ってきた食べ物を溶かします。そして食べ物は柔らかい粥状にされていきます。
胃には食物だけに限らず、口や鼻から取り込まれた花粉やハウスダスト、細菌やウィルスなどの栄養とならないものや有害なものも入ってきます。しかし、胃液に含まれるペプシンというタンパク質分解酵素が花粉やハウスダストなどに含まれるタンパク質を無害化してくれますし、また、胃液に含まれる胃酸はPh1~1・5の強酸で、細菌やウィルスなどの微生物もたいてい殺してくれているのです。
胃は体の中に入ってきた不要なものが生き続けないようにするために、最初に用意された関門だといえます。
[アトピー体質に見られる胃酸の弱さ]
消化器官であると同時に外来物の侵入を防いでくれている胃は、まさに健康と免疫の要だといえます。そして、その胃の働きは胃液分泌があってこそであり、胃液が効果的に働くためには、そこに含まれる胃酸や酵素が十分であることが重要になってきます。
ところがアトピー症状を持つ人の場合、胃液の働きが弱く、酸性度も低いことがアトピーを持たない人に比べて多く見られるとされています。胃液の酸性度の低さとは、含まれる胃酸の少なさを示します。胃酸が少ない胃液では消化力も殺菌力も低下します。本来行われるはずだった胃での消化や殺菌が不十分になり、この状態が続けば後に続く腸管でも問題が発生しやすくなります。腸管でも消化や殺菌は行われますが、腸管免疫の場でもあるため、これを刺激するような未消化物はできるだけ入れたくないところです。
アメリカのクリニックでは、アトピー改善に向けた対策の中の治療プログラムにサプリメントによる胃酸の補強を組み込むこともあります。胃酸を十分にし、胃での消化力、殺菌力を上げることが大切です。
●知っておきたい栄養素① 塩分
胃液に含まれる胃酸とは、物質名でいうと「塩酸」です。胃液に含まれる塩酸を増やすことが、強い消化力や殺菌力をもたせるポイントになります。
塩酸は化学式にすると「HCl」となり、水素(H)と塩素(Cl)が必要です。水素は体内の水と二酸化炭素によって得られます。塩素は食べ物に含まれる塩分が原料になります。したがって、強い胃散を作るには食事で摂る塩分が欠かせません。塩分の多い食事が長期間にわたると血管を硬くし高血圧や腎臓病の原因となるため注意が必要ですが、塩分が少なすぎると体の抵抗力も落ちてしまうのです。
[オススメ食材:梅干し]
胃酸分泌を狙った塩分補給においては梅干しがオススメです。塩分だけでなく胃液の分泌を促すクエン酸も含まれています。
梅干しを口に含むと、皆さんも思わず唾液が出てきた経験はないでしょうか? それに応じるように胃までが動き出します。塩分と酸が胃酸分泌を促し、停滞した胃の活動を刺激してくれます。
梅にはもう1つ、ピロリ菌から胃を守る成分も含まれています。本来、酸性の環境である胃の内部では、生き続けられる菌は少なくほぼ無菌状態なのですが、中には酸性に対する耐性をもち棲みつくことができる菌があります。その代表例が「ピロリ菌」です。
ピロリ菌は胃粘膜形成を阻害し、胃潰瘍や胃がんの原因にもなる恐ろしい菌です。現代人の多くにピロリ菌感染があると考えられていて、検査と殺菌が推奨されています。
胃酸分泌が低下している人の胃では、より活動的になり繁殖力も増します。胃酸の少ない人はピロリ菌の脅威にもさらされていることになるのですが、梅にはピロリ菌の活動を抑える「梅リグナン」が含まれています。大きさにもよりますが、1~2日に1個程度の梅干しを食べるようにすると、胃を守りながら胃酸分泌を増やしていけます。
※日本人の食事は塩分が多くなりがちなので、塩分の少ない梅干しを利用すると良いです。
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●知っておきたい栄養素② キャベジン
胃は精神状態や睡眠不足など、ちょっとしたストレスでもその影響を受けやすいデリケートな器官でもあります。そもそも胃の健康状態は、絶妙なバランスのうえに成り立っています。強酸である胃酸が胃を溶かさずにいられるのは、胃の内側を粘膜が覆っているからで、この胃粘膜の形成がストレスや疲労などによって影響を受けやすいため、胃粘膜が薄くなって胃の内壁が荒れてしまうなどのトラブルが起きてしまいます。胃酸分泌の弱さは補強すべきですが、それと同時に胃粘膜のケアも忘れずに行うべきなのです。
胃や胃粘膜を保護する栄養素には「キャベジン」があります。胃粘膜の荒れが進行すると炎症や潰瘍となって深刻な症状につながっていきますが、キャベジンにはこれを修復し胃壁を丈夫にする働きがあります。名前のとおりキャベツから発見された成分で、物質名としては「S―メチルメチオニン」を指します。ビタミンと似た性質を持つことから、ビタミンUと呼ばれることもあります。
キャベジンにはもう1つアレルギーの人にとって注目すべき作用があります。それは、かゆみや炎症を起こす物質であるヒスタミンの放出を防ぐ作用です。胃を保護しながらかゆみを抑える働きをもつキャベジンは、ぜひ積極的に摂ってほしい栄養素です。
[オススメ食材:キャベツ]
キャベジンを摂るには、やはりキャベツが一番効率的です。キャベジンは水溶性で加熱にも弱いという性質があるので、生のままサラダにして食べたり、加熱調理するなら短時間で仕上げるようにします。キャベツに含まれる水分をできるだけ逃がさないのがポイントになるので、ジューサーでスムージーにするのもオススメです。キャベツの辛味が気になる方は、リンゴなど加えると飲みやすくなります。作り置きはせず、すぐ飲みましょう。
1日にキャベツの葉1〜2枚食べれば、毎日の胃のケアには十分なキャベジンが摂れます。ビタミンCも豊富で、他にカルシウム、ビタミンK、アミノ酸のリジンやトリプトファンも含まれています。
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小腸 〜アトピーの改善と悪化にもカギとなる~
[消化吸収の場でありT細胞を育てる場でもある]
胃で溶かされ柔らかくされた食べ物は、続いて小腸へと送り込まれます。小腸はおよそ6メートルほどの長いチューブ状の器官ですが、筋肉に覆われ収縮した状態で3メートルほどになります。小腸での悪玉菌繁殖がアレルギーの悪化を導くとして近年注目されているため、詳しく解説していきます。
小腸は形状や役割からさらに3つの部位、十二指腸、空腸、回腸に分けることができます。
十二指腸は小腸の入り口の25センチメートルほどの部分で、腸液や膵液、胆汁が分泌されることで胃酸を中和し、食べ物の分解をさらに進めます。口から入った食べ物は分子レベルにまでなっていき、もはや元の姿の片鱗はなくドロドロの状態になります。
十二指腸の腸壁には、絨毯の毛のようにびっしりと絨毛があり、蠕動運動によって粥状の食べ物を押し流しながら、絨毛の1本1本が食べ物の中に入り込み、栄養となる分子を選択的に吸収します。
短い十二指腸をくぐったあと、続く空腸と回腸の管内にも無数の絨毛があり、粥状の食べ物からの吸収が引き続き行われます。十二指腸は膵液や胆汁を分泌することで食べ物を徹底的に細かくしますが、あまり吸収はできません。その任は続く空腸と回腸に、主に任されることになります。
空腸での栄養の吸収量は特に多く、回腸の終わりのほうでは小腸での吸収過程も仕上げに入り、絨毛の数も減少していきます。
絨毛の中には毛細血管やリンパ管が張り巡らされ、ブドウ糖やアミノ酸は毛細血管から、脂肪酸とグリセリンはリンパ管から吸収されます。
また、パイエル板をはじめとする免疫器官もあり、内容物を監視し素早く対応できるようになっています。
実はこのパイエル板を含む腸の免疫器官こそ、T細胞の訓練場に他なりません。ここで腸の内容物から刺激を受けることによって、T細胞が活性化され、Th1/Th2バランスの補正に繋がると考えられているのです。
[小腸と菌]
小腸の働きは、腸壁の細菌叢がしっかりと形成されて初めて正常に機能します。小腸内での菌の働きについて解説していきます。
胃でたいていの菌が殺菌されるので、十二指腸に菌の流入の可能性は低くなっています。
また、十二指腸では胃酸を中和する腸液が分泌されますが、胆汁の殺菌作用があるため、菌は通常あまり生きられません。
空腸でも胆汁の効果は効いていて、菌の増殖は抑えられています。どんどん内容物を送り出し空っぽにするため、菌が定着しづらいといえます。
このように十二指腸と空腸では菌の数はあまり多くなく、棲みつくことができる菌としてはラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ヴェイオネラ(Veionella)属や酵母などがあります。
そして回腸ですが、この次に続く大腸に備え胆汁の回収が行われます。すると菌の数はぐっと増えていきます。十二指腸や空腸で内容物1グラムあたりに約1万個ほどだった菌数が、回腸では1グラムあたり10万〜1千万個ほどになるとされています。
十二指腸と空腸にいた菌に加え、大腸で多く棲息するバクテロイデス(Bacteroides)、ユーバクテリウム(Eubacterium)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)やクロストリディウム(Clostridium)などが混在しています。
このように同じ小腸の中でも、場所によって役割や棲みつく菌に違いがあることが分かっています。これは細菌ごとに生きやすい条件が微妙に異なるからです。
もっと大きいくくりで見ると、腸内細菌はたいてい腸の中でしか生きられないものがほとんどです。腸内であれば、どんな生物の腸でも生きられるというものもありますが、限られた生物の腸にしか棲めない菌もいます。
生物の腸内という場を生息域に選んだ彼らは、その場の持ち主つまり宿主ですが、この宿主が生き続けることこそが生存の場を維持することになります。ですから、腸内細菌には宿主の健康に貢献する役割を持つものが少なくありません。
人間の小腸の細菌叢も内容物の中に混ざりながら代謝活動をし、健康に貢献する様々な生成物を出しています。その代表的なものとして、ビオチンなど小腸で生成されるビタミンB群が挙げられます。腸内細菌と私たちの体は持ちつ持たれつの関係にあるのです。
[小腸内の悪玉菌繁殖がアトピー発症に繋がっている]
しかし時として、この細菌叢が弱体化してしまうことがあります。特に抗生物質の服用などで細菌叢を構成する善玉菌が死んでしまうと、細菌叢バランスが大きく変化し、腸管壁をカバーするように厚く覆っていた細菌叢は薄くなり、悪くなると腸管壁がむき出しのような状態になってしまいます。
このような状態では小腸内の環境は悪化し、本来いなくてよい菌が入り込んできたり、勢力が抑えられていた菌が一気に繁殖しはじめます。日和見菌から悪玉菌に変わるものも現れ、アレルギー発症の原因になっていくと考えられています。
必ずしも抗生物質を服用しなくとも、例えば小腸の善玉菌のエサになるものが不足したり、善玉菌を殺してしまうような化学物質が頻繁に入ってくる場合、また、悪玉菌のエサが豊富である場合でも、少しずつ進行すると考えられています。
つまり消化管を流れる食べ物の質次第で、腸内環境は変わってしまうのです。
現代の食生活には悪玉菌の好む食品がたくさんあります。悪玉菌が異常繁殖すると、生成された毒素によって腸内細菌叢の厚さはますます薄くなり、腸管壁は傷つきやすくなります。傷ついた腸管壁はアレルギー発症の可能性を高めてしまいます。
●知っておきたい栄養素③ グルタミン
小腸がすでに傷ついていたり弱っている場合に修復する働きを持つ栄養素です。まず小腸の修復を促す場合、小腸の細胞のエネルギー源となる栄養を摂り、新陳代謝を促進して回復を進めなければなりません。そのエネルギー源とは「グルタミン」という栄養素です。グルタミンと聞くと、うまみ成分の1つであるグルタミン酸を思い浮かべる人も多いでしょう。しかし、ここで挙げているのは別のもので、構造も体内での役割も違います。
グルタミンは体内に存在するアミノ酸の中で最も大きい割合を占めています。人体の組成成分としてはありふれた物質ですが、筋肉や腸の細胞の新陳代謝に必要で、不足すれば筋肉や腸の運動が弱まってしまいます。特に激しい活動や運動をする人には必要で、グルタミンを添加した食品を摂ることで回復が早まります。
また、腸内に炎症や潰瘍がある場合も、グルタミンを摂ることで回復が早まります。腸内細菌叢が悪化し薄くなった腸内は損傷してしまう箇所も多くなるため、グルタミンの補給によって修復することが大切です。
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(写真:マグロの刺身)
[オススメ食材:魚の刺身]
グルタミンは比較的多くの食品に含まれますが、加熱によって変性してしまうので食材を非加熱で摂る必要があります。そこで魚の刺身が最も効率的だといえます。毎日というわけではなく、週に1~2回くらい主菜や副菜として献立に組み込んでみてください。刺身のほかにも牛乳やチーズ、トマトなどからも摂ることができます。
●知っておきたい栄養素④ 葉緑素(クロロフィル)

小腸はタンパク質の分解においても要所となっています。多くの消化酵素が働き、タンパク質を小さなアミノ酸にまで分解して吸収します。この分解が充分にされないと、体を作るタンパク質合成に必要なアミノ酸が得られません。万が一、傷ついた腸壁から未消化のタンパク質が漏れてしまったら、これを標的としたアレルギー反応に繋がってしまいます。小腸内で充分な消化酵素が働くことは大変重要なのです。
ところが食べ物の中には、小腸内で働く消化酵素の働きを邪魔する物が含まれていることがあります。
水銀をはじめとする、いわゆる重金属類です。水銀は元々自然界にあるもので、私たちは食材と一緒に取り込んでしまう可能性があります。
多くの水銀は無機水銀といって、多少の摂取なら大きな害はないとされていますが、有機水銀は過去に起きた水俣病という公害病の原因物質としても有名です。
過剰に取り込むと、脳をはじめとする組織に蓄積し、神経障害をも引き起こします。現在でも妊娠期や授乳期の女性には、水銀を多く取り込みやすい種類の魚などは、過剰な摂取を控えるよう指導されることがあります。
食べ物と一緒に消化器内に取り込まれた水銀は、食物繊維と一緒に排出されることが分かっています。水銀をはじめとする重金属類の体内への蓄積を防ぐ上で、積極的な食物繊維の摂取は大変重要です。
しかし、中には消化の過程で非常に微細な分子となり、腸内にいすわる水銀もあります。タンパク質分解酵素の働きを阻害し、アレルギーを招く未消化タンパクを増加させると考えられています。
微細な水銀は食物繊維でも捕らえにくく、腸内の絨毛の間にいつまでも漂っています。このような水銀の排出には、植物の色素成分である葉緑素がより有効であるとされています。これはクロロフィルとも呼ばれます。
[オススメ食材:緑の濃い野菜]
葉緑素を多く含む食材としては、やはり緑色の濃い野菜、特に葉ものの野菜が挙げられます。調理についてですが、葉緑素は熱で変性してしまう特徴があるので、生で食べるか加熱するなら長時間にならないようにし、鮮やかな緑色が失われない程度にしておくといいでしょう。また、植物の細胞は硬い細胞壁を持ち、葉緑素はその中にあります。よく噛んで細胞壁を壊し、中の葉緑素が出てきやすくすることも大切です。
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(写真:ホウレンソウ)
●知っておきたい栄養素⑤ 乳酸菌
小腸で働く菌の仲間を食べ物で補うということも、小腸の細菌叢を健全に保つのに大切なことです。小腸で働く菌は種類も数も限られていて、中でも主体的に働いているのはラクトバチルス属の菌です。近年では多くの企業が、新しい機能をもった菌を発見したり開発したりしています。特にラクトバチルス属のカゼイ菌は、アレルギーへの効果が証明されています。ヨーグルトなどには含まれている菌の名前と機能がパッケージに表示されているものもありますから、チェックしてみるとよいです。
[オススメ食品:乳酸菌発酵食品]
ラクトバチルス属の菌はいわゆる乳酸菌の1つで、乳酸発酵した食品を摂ることで補えます。乳酸発酵した食品として代表的なものに、ぬか漬けやキムチなどの漬け物、ヨーグルトなどがあります。これらの食品の摂取で、実際に腸までたどり着く菌はわずかです。実は消化の過程で菌のほとんどが死んでしまうのですが、死んだ菌の屍骸も菌の増殖を助けます。必ずしも生きて届かなくてもきちんと働いてくれるので、日頃から心がけて摂取するのがオススメです。
なお、仮に菌が生きたまま腸に届いても、必ずしも腸内に定着するわけではありません。また、ある程度継続して摂らないと効果も感じられません。10日~2週間ほど続けてみて自分に合うか試してみましょう。一度に大量に摂らず、適量ずつです。
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(写真:キュウリのぬか漬け)
大腸 〜過剰な免疫反応を抑える大腸内発酵~
[制御性T細胞を育てる大腸]
小腸を経て来た食物は、次に大腸に送られます。小腸を通過する間に大半の栄養、例えば糖質、脂質、タンパク質など代表的な栄養分はほぼ体内へと吸収しつくされているので、大腸に到達する食物の成分はほとんど食物繊維だけになっています。栄養的にはほぼ役目を終えている食物ですが、大腸にはこの食物をさらに利用する仕組みが備わっています。
大腸では食物に含まれる水分や電解質の吸収が行われます。また、小腸に比べてはるかに多くの菌が棲息していて、食物に含まれる食物繊維やオリゴ糖を利用して生きています。その活動により、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(※)、そして僅かですがビタミン類も生成、体内へと吸収しています。
※脂肪酸:油脂を構成する成分の1つで、数個から数十個の炭素が鎖のように繋がった構造をしています。そのうち炭素の数が6個以下のものを短鎖脂肪酸と呼びます。
腸管免疫として働く細胞や組織もあり、消化過程の最終段階とはいえ、非常に重要な器官です。
大腸の仕組みで特徴的なのは、大腸内での発酵で得られた短鎖脂肪酸が直接、大腸上皮細胞の主要エネルギー源として使われることです。大腸の細胞は短鎖脂肪酸を得ると、水や養分の吸収、腸運動などの重要な働きをすることが可能になるのです。生成される短鎖脂肪酸が少ないと、大腸細胞は充分なエネルギーを得られず、大腸の動きも停滞しがちになります。
また、短鎖脂肪酸は大腸のためだけでなく、全身の免疫機構でも重要な働きをします。特に注目されているのが免疫反応のブレーキとして働く制御性T細胞の働きを高める作用です。
制御性T細胞は過剰なアレルギー反応を抑制する働きを持つと考えられていて、特に酪酸によって活性化されることが分かっています。難病とされる炎症性腸疾患を起こしたマウスに実際に酪酸を与えると、制御性T細胞が増え症状が改善したという研究結果もあります。
食物繊維を十分に摂り、大腸内発酵によって短鎖脂肪酸が生成されることは、免疫の上でも非常に重要なのです。さらに大腸では小腸ほどの量ではありませんが、ビタミンの生成や吸収も行われています。
[大腸の健康には食物繊維が不可欠]
近年、大腸ガンの発症が増えていますが、食物繊維が不足した食生活が原因の1つになっていると考えられています。しかし、ガンになる前に食物繊維が足りない食事の習慣化は、便が出にくくなる「便秘」を招きます。
普通、食事をすれば消化管にはものが入っていくので、それが出ないと中に溜まっているということになります。特に大腸内はその名の通り大きく、小腸よりは動きが緩慢で内容物を貯留する働きもあります。
しかし、食物繊維をあまり含まない内容物がいつまでもあっても、本来行われるはずの発酵がされず、善玉菌の働きは弱まります。大腸は働くためのエネルギーを得られず、細菌叢では善玉菌にかわって悪玉菌が勢力を拡大してきます。
これらの働きによって生成される様々な成分が、病気や不調の原因となっているのではないかと考えられています。
●知っておきたい栄養素⑥ 大麦ベータグルカン(食物繊維)
平成25年に行われた理化学研究所、東京大学、慶應義塾大学 先端生命科学研究所による「腸内細菌が作る酪酸が体内に取り込まれて免疫系に作用し、制御性T細胞という炎症やアレルギーなどを抑える免疫細胞を増やす働きがある」という発表以降、酪酸は注目を浴びています。
酪酸を多く含む食品としては発酵バターがあります。しかし、脂質の塊である発酵バターだけで、大きな器官である大腸で生産される量の酪酸をまかなうのは少々無理があります。
多くの大腸内細菌が働いて発酵が起きてこそ、腸内環境は整い免疫系は働きますので、単に酪酸を摂れば良いわけではなく、健全な腸内発酵の上で得られるようにすることが大切です。
では、大腸内発酵でより酪酸が生成されるためには、どんな食事をすれば良いのでしょうか。酪酸を生成するのは大腸内細菌の1つ酪酸菌です。酪酸菌は食物繊維をエサにして発酵します。中でも水溶性食物繊維でより発酵が進むとされています。水溶性食物繊維には、果物のペクチン、野菜のネバネバ成分のムチン、海藻に含まれるフコイダン、アルギン酸などがあります。
これらの成分は消化器官の粘膜を保護する役割があり、消化吸収も助ける作用があります。最終的に大腸に入ると、酪酸菌などのエサになって酪酸の生成を促し、免疫の働きに貢献するのです。
水溶性食物繊維は消化の過程の最初から最後まで、ずっと活用されているというわけです。できるだけ毎食摂れるよう心がけたい栄養素です。
[オススメ食材:大麦]
水溶性食物繊維の中で近年、特に注目されているものに大麦のベータグルカンがあります。大腸だけでなく小腸での作用も確認されていて、小腸の免疫細胞を刺激して免疫系機構全体に作用し、マクロファージやナチュラルキラー細胞などの働きを活性化するとされています。アレルギーやガンを予防するとして、海外では1日3千ミリグラムという目安を設けて積極的に摂取を勧める国もあります。
(写真:ゆでた押し麦(大麦))
●知っておきたい栄養素⑦ EPA(エイコサペンタエン酸)
アレルギー症状が蔓延する原因の1つとして、現代人の食生活における油脂の質やバランスの悪さを指摘する声も多く挙がっています。油脂は消化の過程で腸内細菌叢に影響があり、体内では細胞膜の構成要素となったりエネルギー源として使われたりします。
しかし油脂の摂取バランスが悪いと、代謝の過程でロイコトリエンなど炎症を招く物質の過剰な生成を招き、肥満だけでなくアレルギーをはじめとする様々な症状に繋がると考えられているのです。
私たちは食生活の中で油脂の存在をなかなか認識していませんが、どんな食べ物にもたいてい含まれていて、動物性食品なら動物性の油脂が、植物性食品なら植物性の油脂が含まれています。
また、油脂は含まれる脂肪酸によっても性質や機能が異なっています。主に常温で固まる油脂には「飽和脂肪酸」が、液状の油脂には「不飽和脂肪酸」が多く、さらに不飽和脂肪酸の中にはオメガ3、6、9系の脂肪酸があり、これらを適度なバランスで摂ることが私たちの健康を支えます。しかし、現代人にはこのバランスが大きく偏っている人が多く、飽和脂肪酸やオメガ6系脂肪酸の摂りすぎと、オメガ3系脂肪酸の不足が問題視されています。
特にオメガ3系脂肪酸は腸内細菌叢の善玉菌を増やし、過剰な炎症反応を抑えるとしてアレルギーをもつ人には摂取を勧められています。
[オススメ食材:シソ油]
オメガ3系脂肪酸を多く含む食品としては、特に油ののった背の青い魚やナッツが挙げられます。一般に120グラム程度の切り身を1日に1切れ食べれば、必要とされるオメガ脂肪酸を摂れるとされていますが、1日に20~30グラム程度のくるみやアーモンドなどのナッツ類などでも摂ることができます。また、シソや亜麻仁、えごまなどの実にも含まれていて、これらを絞った油も最近は増えてきました。
オメガ3系脂肪酸は加熱に弱いため、これらの食材をあまり加熱せずに利用することが効率よく摂取するためのポイントになります。
体にいいとはいえ、やはりバランスが大切ですので、オメガ3系だからといって摂りすぎは禁物です。また、種類に限らず油脂はどれも1グラムあたり9キロカロリーと高いカロリーを持ちます。量としては、あくまで脇役程度になるよう心がけます。
(写真:オイル)
Ⅱ:内臓の働きを支援し分泌系を補強する
●内臓機能の強化で免疫バランスの改善が加速
アトピー性皮膚炎は、消化液やホルモン分泌の不足が原因の一端になっている場合もあると考えられています。ヨーグルトや食物繊維など腸内環境の改善のために良いといわれるものをいくら試しても一向に改善の兆しが見えない場合、問題が分泌系にもある可能性があります。
分泌系の弱さの原因には、先天性のものと後天性のもの、また、加齢やストレスなども考えられますが、いずれの場合も関連する器官のケアが不可欠になります。深刻な症状がある場合は医療機関での適切な処置が必要ですが、軽度であれば食生活を工夫することでも行えます。
消化液分泌を改善するには、これを担当する内臓の働きを促す栄養素をとることが大切です。また、消化には消化液に含まれる消化酵素も重要です。酵素の成分になるものを食事で補うことも内臓の働きを促します。
内臓はホルモンの生成や活性化にも関わっていますから、内臓の働きが円滑になることでホルモンの働きもよくなります。ビタミンDのように、ホルモンのような働きをする成分についても内臓が健康に機能していることが大切です。
内臓が本来の機能を取り戻すことで腸内環境の改善も加速され、免疫のバランスを整えることができると考えられています。
肝臓 ~胆汁の生成と解毒処理で免疫に深く関わる~
[胆汁の生成]
肝臓は糖や脂質、アミノ酸の代謝に関わっているほか、化学的な分解処理の必要性があるものが血中にある場合に、それを担う重要な器官です。小腸で分泌される消化液の1つ胆汁は肝臓で作られていて、胆汁に含まれる胆汁酸は脂肪やタンパク質の消化に関わっています。そのため肝臓は食物消化にも深く関わっています。
また、胆汁酸には菌の細胞膜を破壊する力があるため、さらされた菌はたいてい死んでしまいます。肝臓は腸内環境の悪化を防ぐことにも役立っているのです。
[アレルギー体質では解毒器官に係る負担は重くなる]
肝臓は血中に流れる様々な物質を監視し処理を行う臓器で、「解毒工場」とも言い換えられる大きな臓器です。食べ物の消化に問題があるときも、肝臓はその処理のために働きます。消化が不十分で大きなまま血中に入り込んできたものは細胞の栄養にならず、不用物や毒物として扱わなければならなくなり、肝臓が解毒処理することになるからです。
アレルギー症状が表れて炎症物質が血中にたくさん放出されたときも、その処理に関わりますし、薬の使用があれば薬の成分を最終的に分解処理するのも肝臓です。アトピーの方の体内では肝臓に係る負担が非常に大きくなっている可能性が高いです。
●知っておきたい栄養素⑧ タウリン
胆汁の分泌量の減少は腸内環境を悪化させ、便秘やアレルギー症状に繋がります。肝臓の働きを支え、胆汁の分泌を促す働きをもつ栄養素に「タウリン」があります。アミノ酸の一種で私たちの体内にも多く存在し様々な組織で働いています。
人体にはタウリンを合成する仕組みがあるため、食事で摂った栄養をもとにまかなうことができますが、不足すると細胞や組織の新陳代謝が低下してしまいます。特にタウリンが多く存在する目の組織障害や肝機能の低下、ひいては動脈硬化や心臓病などにも繋がってしまう危険性があります。また、神経伝達物質としても働くことが分かっていて、自律神経や免疫のバランスを整える作用もあります。
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(写真:イカ)
[オススメ食材:イカ、タコ、貝類]
タウリンは過剰摂取の危険性は低いとされていますが、摂取量の目安としては1日500ミリグラム程度という数値があります。主にイカやタコ、貝類などに多く含まれていて、イカやタコならだいたい180グラムくらいになります。しかし、肉や魚などのタンパク源からも合成できるので、バランスの取れた食事の中にイカやタコ、エビ、貝類などを30〜50グラムほど食べれば、体内のタウリン合成を十分にできるでしょう。
熱に強いため食材を加熱調理しても摂取することができますが、水には溶けやすいので調理で出た出汁もできるだけ摂るようにしましょう。
●知っておきたい栄養素⑨ ケルセチン
肝臓の働きを促進する栄養素としては「ケルセチン」も注目されています。ポリフェノールの一種で、肝脂肪の代謝を促進して肝機能を高めます。肝臓の働きがよくなると全身の脂肪の代謝もすすむので、ダイエット食材としても注目されています。
また、アレルギーの人にはケルセチンの高い抗酸化作用も見逃せません。アレルギー症状では炎症が体内で発生する際に活性酸素が発生し、これが再び細胞を傷つける要因として働きます。ケルセチンは、この活性酸素の働きを強力に抑えることができます。炎症を起こす物質ヒスタミンの放出を抑える働きもあり、積極的に摂ってほしい栄養素です。
[オススメ食材:タマネギ]
ケルセチンを含む代表的な食材としてタマネギが挙げられます。ケルセチンそのものは黄色の物質で、タマネギの中でも外側の茶色い皮に特に多く含まれています。主に食用とされる内側の白い部分にも含まれていますが、近年はケルセチンの様々な作用が注目され、タマネギの皮を商品にしたものも販売されています。
ケルセチンは熱に強く、加熱調理された食材からも摂取することができます。また、脂溶性であるため、油を使った炒め物や油脂を含んだ食材(肉や魚、ナッツ類など)と一緒に摂ることで、より吸収力が上がります。
さらにタマネギには、血液をサラサラにしたり解毒処理も助ける硫化アリルがあることで知られています。ほかにグルタチオンやセレンも含まれており、これらも肝臓の解毒機能を強化します。
硫化アリルは生で食べると効率よく摂取できます。タマネギは生で食べても加熱して食べても、肝臓に働きかけてくれる優れた野菜であるといえます。ぜひ、毎日の食事で摂って頂きたいです。
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(写真:タマネギ)
膵臓 ~膵液を作り腸内吸収を助ける~
[膵臓のはたらき]
膵臓は胃の後ろに位置し、腸管で分泌される消化液である膵液や、血糖値を調整するホルモンの産生を受け持つ臓器です。
膵臓で作られる膵液には糖質や脂質の分解に必要な酵素が含まれていて、食物の消化吸収に重要な役割をもっています。また、血中の糖を代謝しエネルギーに変えさせるホルモン「インスリン」や、糖がなくなると肝臓に蓄えてあるグリコーゲンを分解して糖に変えさせるホルモン「グルカゴン」も膵臓から分泌され、血糖値の調整に深く関わっています。
このような重要な役割を担う膵臓ですが、現代の食生活は膵臓の負担を重くしやすい傾向があります。その大きな要因の1つが、甘いものやアルコールが多い食生活です。現代生活では食生活が多様化し、各人の好みによって多くの食べ物を選ぶことができますが、甘いものやアルコールを好む食生活では糖の摂取が過剰になりやすく、膵臓の負担は重くなります。さらに、膵臓に必要なミネラルなどの栄養素が不足しやすく、過剰な負担と栄養不足が重なって膵臓は炎症を起こし機能が低下します。膵臓の機能低下は食物消化やエネルギー代謝に影響を及ぼし、重くなれば糖尿病に陥って命の危険も生じてきます。
[膵臓とアトピー]
アトピーの発症に膵臓が関わっているかどうかについては不明ですが、膵炎を起こす人にアトピー性皮膚炎を持っている人が多いという傾向はあるようです。膵臓は「沈黙の臓器」とも呼ばれ、問題が発生しても重症化するまでは発見しづらく健康状態が測りにくいため、膵臓が先かアトピーが先かについては分からないことが多いでしょう。アトピー性皮膚炎がある人は膵臓のケアをしておくべきだといえます。
●知っておきたい栄養素⑩ 亜鉛
膵臓をケアする栄養素としてはミネラル類が挙げられます。膵臓は外分泌、内分泌のいずれの機能ももっていますが、どちらの働きにもミネラルが不可欠です。中でも重要なのが亜鉛です。
亜鉛はタンパク質合成に関わり、筋肉や骨、皮膚、脳、内臓などあらゆる器官に含まれています。新陳代謝を促進するので、怪我や病気で傷ついた組織を修復する際は、より多く必要になります。
また、免疫を司る白血球の働きにも関わっていて、亜鉛を補給することで菌やウイルスなどによる感染症リスクが下がることも分かっています。
アトピーでは炎症や掻き傷を修復するために、亜鉛が常に消費されている状態にあります。亜鉛が不足しやすい状態にあることを認識して補給するようにしましょう。
[オススメ食材:牡蠣]
亜鉛を多く含む食品としては肉類です。中でもレバーが挙げられます。また、魚や貝類にも含まれていて、代表的なものには牡蠣があります。植物性食品では大豆や大豆製品にも含まれます。
食品中の亜鉛は熱に対しては強い成分ですが、水に溶けやすいため調理で出た水分も捨てずに食べることが大切です。また、亜鉛に限らずミネラルはビタミンと一緒に摂ることで吸収率が上がります。野菜や果物と合わせた献立で効率のよい摂取につながります。
(写真:牡蠣)
腎臓 ~ビタミンD活性化と体内環境の安定を司る~
[未消化物によって疲弊する腎臓]
肝臓で生成され、血中に放出された尿素を濾しとり尿にするのが代表的な腎臓の機能ですが、他にもホルモンの生成、血圧の調整にも関わっています。
また、食事などの影響によって血液が過度に酸性やアルカリ性にならないよう、ある程度一定の範囲内に保つ機能も持っています。消化力が落ち腸内環境が悪化した状態では、血液が過度に酸性かあるいはアルカリ性かに傾きやすくなり、腎臓はフル稼働を強いられることになります。
また、腎臓はカルシウムの吸収に必要なビタミンDを活性化する場でもあります。人体には皮膚に日光があたることでビタミンDを合成する回路が備わっていますが、生成されたビタミンDが機能するためには肝臓と腎臓で活性化されなければなりません。食材から得たビタミンDも活性化を経なければ働くことができません。
ビタミンDは免疫バランスを調整する働きをもつため、アレルギー症状をもつ人にとっても重要です。不足しないよう食事に気をつけたり、日光を意識的に浴びることも大切ですが、これを無駄にしないように腎臓のケアもしておくことが大切です。
●知っておきたい栄養素⑪ クエルシトリン
腎臓を守るために最も大切なことは、摂取するもの全般の質のバランスが取れていることです。どんな食材でも摂りすぎは腎臓に負担をかけます。バランスのよい食生活を続けて、糖尿病や高血圧など腎臓の機能不全を招くような事態に陥らないように心がけることが大切です。
一度腎臓病に陥ると、健康なときとは異なり腎臓の負担にならないような食材や味つけが必要になるので、大きく食生活が変わります。医療的な知識やサポートも必要になります。そのような深刻な状態に至る前の、腎臓の健康維持や機能をサポートしてくれる食材をご紹介します。
腎臓の尿生成がスムーズに行われるためには、十分な水分とナトリウムやカリウムのミネラルバランスが良いことが大切です。現代の食生活では野菜不足によるカリウム不足が起きやすいため、野菜をきちんと取れるように心がけましょう。
そして、腎臓の血流が良いことも大切です。毛細血管の血流をよくするポリフェノールなどの栄養素も腎臓をサポートします。腎機能によいとされるポリフェノールとしては「クエルシトリン」が挙げられます。利尿作用があり腎炎や高血圧を防ぐとされています。
[オススメ食材:ウリ科の野菜]
クエルシトリンを含む食品は多くありますが、中でもウリ科の野菜には大抵どれにも含まれています。カリウムも豊富なので毎日摂って欲しい食材です。
クエルシトリンは苦味成分としても知られていて、ピーマンやビールの苦味づけに用いられるホップにも含まれています。調理による損失は少ないとされていますが、油に溶けやすいので炒め物などは少ない油で調理し、油も一緒に食べるようにしましょう。摂取において推奨量などは特にありませんが、クエルシトリンの利尿作用は強力なので、わずかでも効果を実感できると思います。
(写真:ゴーヤ、きゅうり、ズッキーニ)
●知っておきたい栄養素⑫ ビタミンD
腎臓や肝臓で活性化されるビタミンDは、アレルギーへの効果において今最も注目されている栄養素です。現代人の多くが不足状態にあると考えられていて、アレルギー増加の一因になっているとも考えられています。
ビタミンDはナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫細胞を活性化し、皮膚の皮脂膜に含まれるディフェンシンやカテリジンをはじめ、全身の細胞や組織を守る抗菌ペプチドの生成にも関わっています。
蓄積性のあるビタミンなので過剰摂取には注意が必要ですが、ある程度の量が体内に確保されていないと免疫バランスが崩れ、アレルギーを発症しやすくなると考えられています。実際、副甲状腺機能低下症など体内のビタミンD産生に問題が生じるとアトピー症状を併発しやすいことが報告されていて、ビタミンDとアトピーに関連性があることが推測されています。
[オススメ食材:キノコ]
ビタミンDの不足には、サプリメントだけでなく植物性と動物性の両方の食材から補給することも大切です。ビタミンDを多く含む食物には、魚の卵や肝、キノコ類があり、干したものにはより多く含まれます。
魚など動物性の食材から得られるビタミンDのほうが植物性よりも利用率がいいという発表もありますが、キノコの成分にはビタミンDの他にも免疫の働きを調節したり活性化したりするものがあると考えられています。アトピーに用いられる漢方薬の原料にもよく登場します。毎日の食事に積極的に取り入れて欲しいです。
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(写真:乾燥キクラゲをもどしたもの)
副腎 ~多くのホルモン生成に関わる~
[様々なホルモンを生成する器官・副腎]
腎臓の上に位置する副腎は、様々なホルモンを作る器官です。分泌する量も多く体の免疫や成長において非常に重要な働きを持ちます。
副腎には外側の副腎皮質と内側の副腎髄質があります。特に副腎皮質で作られる副腎皮質ホルモンは、炎症の制御など免疫反応に関わるほか、糖質やタンパク質の代謝などにも深く関わっています。
[炎症の修復にために副腎は働き続けている]
複数ある副腎皮質ホルモンのうち、抗炎症剤として働きアレルギー反応に深く関わるのが糖質コルチコイドと呼ばれるもので、中でも代表的なのが「コルチゾール」です。
副腎で生成されるコルチゾールには、心拍を増加させ血圧を上げる作用があります。 朝、目が覚める少し前くらいから特によく分泌されますが、これは起床に向けて体が準備を始めていることを意味します。
また、先ほど述べたように抗炎症作用もあるため、たっぷり睡眠をとり成長ホルモンやコルチゾールの作用を受けると、症状の回復が大きく進みます。
ストレスホルモンとしても有名なコルチゾールですが、分泌が足りないと抗炎症作用も不足することになり、回復が遅れることになります。炎症や傷がなかなか治りにくかったり疲労がいつまでも抜けない時は、コルチゾール分泌が低下している可能性があります。
常に炎症を抱えるアトピーの方の体内では、炎症を鎮めるために副腎がコルチゾールを作り続けています。しかし、ホルモン合成のための材料が不足したり副腎の働きが弱まると、生成量は減ってしまい炎症を抑える力も小さくなります。
●知っておきたい栄養素⑬ ビタミンC
副腎でのコルチゾール生成を助ける栄養素としては、ビタミンCが挙げられます。コラーゲンの生成にも関わっていて、大きな体を持つ生物はそれだけ必要になるのですが、ほとんどの哺乳類はビタミンCを自分の体で合成できます。
しかし、人間をはじめとする多くの霊長類では体内合成ができないため、食べ物で必ず摂取しなければなりません。さらに、ビタミンCは痒みや炎症の原因物質であるヒスタミンの作用を抑える働きもため、アレルギーをもつ人はより多く必要とされます。
[オススメ食材:ショウガ]
ビタミンCは体に取り込まれたあと、比較的早く代謝されてしまいます。また、水溶性で体の中に蓄積させておきにくいため、毎日の食事で欠かさず補給することが大切です。「食事バランスガイド」でもビタミンCの摂取のために1日に果物2つくらいを目安に摂るよう示されています。旬の新鮮なフルーツなどで美味しく補給しましょう。
果物に限らず多くの野菜や植物にも含まれます。中でもショウガは血流を促す成分が豊富で、ジンゲロール、ショウガオールなどの成分が副腎を刺激して、ホルモンの生成と分泌を促します。積極的に取り入れましょう。
一方、痒みや炎症がすでに表れている場合には、食事以外にサプリメントも加えたほうがいいかもしれません。ビタミンCの1日の上限値には諸説ありますが、感染症や炎症がある場合、多くの医師がだいたい1千~3千ミリグラムの量を勧めています。
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(写真:ショウガ)
●知っておきたい栄養素⑭ マグネシウム
副腎では多くのホルモンが合成されますが、その過程にはミネラルが深く関わっています。副腎が担う化学反応には酵素の働きが重要ですが、この酵素はミネラルによって活性化されます。中でもマグネシウムは多くの酵素の働きに関わっていて、不足するとホルモン合成、細胞や組織の維持にも問題が発生しやすくなります。
マグネシウム不足は消化力を下げる要因にもなります。消化に係る酵素の働きにもマグネシウムは不可欠で、不足すれば消化吸収の効率が下がってしまいます。
また、全身の細胞のエネルギー代謝にも関わっていて、マグネシウムが足りないと体全体の新陳代謝が低下することになります。マグネシウムの不足はヒスタミンの過剰な発生や神経が過敏になることにも繋がるため、アレルギーにおいてもその重要性は大変注目されています。
一般にミネラル類は蓄積性があり摂取上限値があります。マグネシウムにも上限値や過剰症がありますが、健康な体ではすぐに代謝され、また排泄されやすいため、毎日の食事できちんと補給すべき栄養素です。
[オススメ食材:豆腐]
マグネシウムは多くの野菜に含まれていますが、特に豆類、根菜類、ナッツ類、海藻類に多く含まれています。先述した「葉緑素(クロロフィル)」も分子構造の中にマグネシウムを含んでいますから、緑の濃い野菜類もマグネシウムの補給源となります。
特にオススメしたい食品は豆腐です。豆や大豆にはマグネシウムが豊富ですが、豆乳に凝固剤として塩化マグネシウムが豊富な「にがり」を添加して作られ豆腐は、さらにマグネシウムが強化された食材だといえます。豆腐に含まれているマグネシウムは、タンパク質と一緒になっていて調理による損失もありません。タンパク源としてでだけでなく、マグネシウムの供給源としても優秀な食品だと言えます。
(写真:豆腐)
[コラム]副甲状腺の機能低下によるアトピー性皮膚炎
ホルモン分泌が免疫系に影響し、アレルギーの原因となっている場合があることをご紹介しましたが、アトピー性皮膚炎においては「PTHホルモン」について特に知っている必要もあるかもしれません。

 PTHホルモンは、甲状腺の裏に位置する副甲状腺という器官から分泌されるホルモンで、主に血中のカルシウムやリンの濃度調節などに関わります。副甲状腺に何らかの問題が生じ、このホルモンの分泌が不足すると、骨と血液の間で行われるカルシウムやリンのやりとりに問題が生じ、神経の働きにも障害が起きます。内臓の中では腎臓に作用し、PTHホルモンの減少で腎臓に問題が発生することもあります。
 症状として皮膚のかゆみが表れることがあり、アトピー性皮膚炎も挙げられます。他に口の周りのしびれや、テタニーと呼ばれる一時的な筋肉の硬縮などもあり、これらを経験したことがある方は副甲状腺の機能低下がアトピーの原因となっている可能性も視野に入れたほうがいいかもしれません。
 原因は、遺伝子異常や免疫異常など多岐にわたるとされていて、血液検査などを経て診断が下されます。症状の程度に応じて、ビタミンDやカルシウム、マグネシウムなどのサプリメントや薬剤が適宜処方され、できるだけ日常生活に支障が出ないように調整します。


豆腐、マグネシウムについての資料
豆腐の調理操作の違いによるMg,Zn,Cu含有量の変化
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jisdh1994/9/4/9_4_81/_pdf
「Mg含量の違いについて凝固剤に塩化マグネシウムを
使用した場合は高くなることを篠田ら14)が報告してい
る.本実験結果でも,メーカーによる含量の異なる原因
の一つに凝固剤の違いがあるのではないかと思われる.」
豆腐の調理方法によってマグネシウム損失量の違いがある
「献立で豆腐料理の冷奴,湯豆腐,煮物,麻婆豆腐,揚
げだし豆腐などを組み入れる場合は,浸漬・ゆでるの調
理操作による影響を考え,計算上10~20%の損失を考慮
に入れる必要があると思われる.さらに,飛竜頭,妙り
豆腐,千草豆腐(擬製豆腐)などを組み入れる場合は,
ほぐしてゆでる操作が含まれることから,約50%の損失
を考慮することが必要と思われる.」
「もち麦」で腸イキイキ革命!  著者: 松生恒夫
もち麦と合わせてとりたい9つの成分
「4 マグネシウム
マグネシウムはミネラルの一種で腸管の働きをよくすることで知られています。
口から食べ物によって摂取されたマグネシウムの25~60%は主に小腸で吸収されます。
そのときに吸収されなかったマグネシウムは次に大腸で豊富に水分をたっぷり吸って便を柔らかくしてくれるのです。
さらに、マグネシウムは体温や血圧を調整する、筋肉の緊張を緩める、細胞のエネルギー消費を助ける、など身体の代謝に不可欠なミネラルです。
豆腐を作る際に使われる凝固剤の「にがり」が便秘によいといわれる理由も、にがりがマグネシウムを多く含むことがカギとなっています。マグネシウムの豊富な食材には昆布やホウレンソウ、ヒジキ、玄米、豆腐、納豆、牡蠣、カツオなどがあります。」

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