
体の恒常性を司る3つの柱「神経系」「内分泌系」「免疫系」
セルフケアの話に入る前に、そもそも免疫とは何か、について説明しようと思います。
免疫というのは、私たちの体に備わっている、体を守るしくみのことで、もっと踏み込んだ形で言うと、「自分とは違う細胞や物質は排除する」という働きです。このしくみがあるおかげで、私たちは病原体となる細菌やウィルス、寄生虫などに体を食い物にされず、追い出すことができるのです。
この免疫にかかわる一通りの機能をひっくるめて「免疫系」と呼びますが、免疫系がその働きを充分に果たすには、脳や神経で構成される「神経系」やホルモン分泌を司る「内分泌系」との連携が欠かせません。神経系や内分泌系もまた免疫系との連携なしに充分な働きをすることはできません。3つの系統は互いに密接に連携しながら、体の恒常性、すなわち、新陳代謝をしながら健康を維持し、生命活動を行うために働いています。
免疫系の問題は他系統の問題に起因している可能性もある
連携をとりながら体の健康を維持している神経系、内分泌系、免疫系ですが、それぞれの系統のなかで何かの問題が発生すると、それが他の系統に影響する、ということも起きます。たとえば、内分泌系に属するホルモンですが、何かの原因でホルモン分泌に問題が起きると、神経系や免疫系が影響を受け、別の問題が起きたりします。したがって、免疫系に問題が発生した場合でも、同じ免疫系のなかに原因があることもあれば、神経系や内分泌系など他の系統で起きた問題に起因していることもあるのです。
免疫の敏感さという問題に取り組むとき、免疫系だけでなく、神経系や内分泌系の状態も視野に入れて行う必要があるのです。
免疫バランスの調整では「自律神経」と「腸内環境」が注目されている
アトピー性皮膚炎に限らず、免疫系の問題は様々な不調をもたらします。とくに現代人は総じて免疫が敏感になる傾向が強く、その調整方法がさまざまに模索されています。
近年とくに注目されているものに神経系のひとつ「自律神経」が挙げられます。自律神経には交感神経と副交感神経があり、これら2種類の神経はそれぞれ活動と休息を司り、生物がもつリズムに則って生命活動ができるよう常に働いています。基本的に真反対のモードを司る2つの神経はその働きの強さにおいては同程度であることがベストとされています。つまり、交感神経が強く働きすぎてもいけないし、副交感神経が強く働きすぎてもいけないのです。しかし、現代社会における生活にはこのバランスを崩す様々な要因がたくさんあります。とくに代表的なのが「ストレス」や「睡眠不足」、電子機器の「ブルーライト」です。これらが多い生活はどうしても交感神経が強く働く時間が多くなり、自律神経バランスが偏ることになります。とくにストレスは自律神経だけでなく、中枢神経系のかゆみの発生にも関与していると考えられているため、上手なストレスコントロールは不可欠です。
神経バランスの崩れは内分泌系にも影響し、ホルモン分泌に反映されます。免疫系にも大きく影響し、敏感さに繋がっていると考えられています。
さらに免疫との密接な関わりがあることがわかっているのが「腸内環境」です。腸内には多くの菌が住み着いていて、腸内細菌叢(腸内フローラ)を構成しています。この腸内細菌叢の状態が体の様々な組織に影響していることが近年次々に明らかになってきました。免疫系への影響についても多くの研究がされており、腸内細菌叢内の細菌バランスやある種の菌の悪玉化が免疫系に作用し、体内のさまざまな場所で炎症反応を起こすこともわかってきました。
免疫の敏感さの改善を目指すとき、「自律神経」と「腸内環境」は最初に取り掛かるべきアプローチとなっています。
基本的な栄養摂取から炎症を抑える栄養素まで、食全体を改善する
腸内環境の改善では、腸内細菌叢に加わって働くことのできる菌類を含んだ食品いわゆるプロバイオティクスや、腸内細菌層を育てるプレバイオティクスといった食品が勧められます。現代人にとって、食べることは比較的簡単なことなので、良いと言われれば一気にそこに情熱を傾けがちですが、残念ながら健康的な腸内細菌層を形成するためには健康な腸管そのものが、さらに腸管までにいたる胃や消化酵素を生成、分泌する内臓がきちんと機能していることも重要で、そのためには基本的な栄養素が体内に供給されていることが必要なのです。つまり、腸内細菌叢だけでなく消化器官全体が円滑に働くための栄養です。
しかし、個々の家庭や個人ごとに生活が多様化している現代では、食生活もじつにさまざまで、なかには必要な栄養摂取ができていないケースもあります。忙しさのあまり、食事に気を配っていられないという人もあるでしょう。食事の栄養バランスは毎日毎日必ず整っていなくてはならない、というものではありませんが、人の生活というのは意識していないと知らず知らずのうちに、同じこと、同じものをしたり食べたりしやすくなります。そのうちにある栄養素が極端に不足していたり過剰に摂っていたりすることがおき、それによって構築された細胞や組織はたとえ免疫が正常でも、本来の細胞活動ができずに炎症を招く場合があります。些細な積み重ねが基本的な健康の基盤を崩し、不調に繋がることがあるのです。免疫の改善に取り組むとき、思い切って食生活全体についても、今一度見直すことが必要だと私は考えています。
さらに、近年では食品に含まれる栄養素のさまざまな機能も発見されています。とくに野菜類に含まれるフラボノイドには抗炎症作用をもつものが多く、その知識を食生活に活かすことで、上手に炎症を減らし、不快な症状を軽減させることもできるのです。
神経バランスと食の改善で免疫系を整える
ここまでご紹介してきた、免疫バランスの改善にむけたセルフケアのなかで、特にポイントになるものを以下に挙げてみましょう。
①すこし強めの活動と十分な睡眠で生活のリズムを取り戻す
②スマホやPCなどのブルーライトを減らす
③神経バランスの調整に作用するもの(呼吸法、鍼灸、漢方薬など)を取り入れてみる
④腸内環境を整える
⑤栄養バランスの偏りを是正
⑥かゆみ・炎症の発生を抑える栄養素の活用①②③は主に神経バランスの改善に向けたもの、④⑤⑥は食の改善に向けたものと言えるでしょう。
では、これらの実践について、次のページでご紹介していきます。