2.神経バランスの補正も必要

 私たちの体内で働いている免疫細胞はもともと血液の細胞と同じ系統で生まれてきたことをご紹介しました。血液の主な成分は血球ですが、これらは私たちの骨のなか骨髄で生まれます。骨髄で生まれた免疫細胞の赤ちゃんは誕生時点ではどんな役割の免疫細胞になるかは決まっていないと考えられています。それが私たちの体の各部にあるリンパ節など神経からの情報を受け取る場所で刺激を受けて、免疫細胞として成熟していくのです。免疫細胞の赤ちゃんが、各種の免疫細胞へと分化する過程に神経による作用を受けているのです。

 ところで、アトピーの患部で盛んに働いている免疫細胞のうち、とくに激しい炎症に関わる免疫細胞に肥満細胞、好酸球、好塩基球、さらに好中球といった細胞があります。これらに共通する特徴は細胞内に「顆粒」という分子をもっていることで、これを使って排除対象を攻撃します。肥満細胞は皮膚組織に固定して存在しているので排除対象物がそばにやってきたとき、好酸球、好塩基球、好中球は血流にのって体内を循環しつつ排除対象物に近づいたときに、顆粒を放出します。放出された顆粒は攻撃対象にとりつき、その成分をを破壊する働きをもっていて、たとえばウィルスや細菌に対してその細胞膜を破壊し殺すのです。アトピー性皮膚炎の炎症患部では免疫細胞から放出された顆粒による炎症が、必要以上に続いていると考えられています。

 免疫細胞による炎症は普通、攻撃対象物がなくなれば自然に終わっていくようになっています。しかし、それがなぜ終わらないのか、がアトピー、あるいはアレルギー全般における病態解明のひとつの課題です。これまでの研究でわかっていることのなかで、顆粒を出す細胞が必要以上に多いことも原因のひとつと考えられています。免疫細胞の体内生産には遺伝情報も関わっているため、先天的にこうした顆粒をもった細胞を多く生産してしまう人がいることは確かです。しかし、一方で、後天的な条件から顆粒をもった細胞を増えてしまうこともわかってきました。私たちの体の神経系には自律神経という神経がありますが、この自律神経のうち交感神経が優位になっている状態だと「アドレナリン」という神経伝達物質が多くなり、これを受け取るしくみをもつ細胞が増えます。それが、好酸球、好中球、好塩基球です。どれも顆粒をもった細胞ですね。顆粒をつかって炎症をおこすタイプの免疫細胞が、交感神経が優位になっていると増えるのです。免疫細胞の構成バランスを調整しようとするとき、神経のバランスにも気をつけなければいけないことがわかっています。

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