私たちの腸内には多くの細菌が棲みつき、その存在がなければ私たちの体に必要な栄養素も合成できないものもあるため、お互いにもちつもたれつの関係であることは言うまでもありません。
しかし、では腸内では腸壁細胞と腸内細菌がべったりと大のなかよしのように密接にやり取りしているかというとそうではありません。
お互い同じ場所に生息する細胞として当然さまざまな分子のやりとりはあります。しかし、その関係は実にシビアで、ともすれば食うか食われるかの関係にすら陥ることがあります。
そうです。どこの場所でも生物たるもの、生存競争をくりひろげる運命にあるのですね。
そもそも、腸内細菌というのは、もともと私たちの体にいたのではなく、私たちが母親から生まれ出た後に、主に口や鼻などを通過して外から侵入してきた侵入者です。しかしながら、それらの侵入者の多くは私たちの体に備わった免疫や母親からもらう母乳の成分によってほとんどが淘汰されてしまいます。そのなかに、体の奥深くまで侵入し、最終的に棲みつくことのできる菌があります。このような菌は人体に影響のない、いわゆる日和見菌とか、あるいは良い関係が築ける善玉菌といった種類のものです。棲みついた菌の数や種類は体の成長とともに増え、私たちの体は彼らがいることが前提となっているようにともに成長していくのです。
ところで、ちょっと話を戻しますが、腸に菌が棲みつく、と言いましたが、実際はすこし違います。腸は腸を作る細胞によって構築されていますが、腸壁を組織する細胞は粘液を出して腸粘膜を形成します。この粘膜に外来の菌が棲みつくのです。この粘液を出す細胞を杯細胞といいます。
杯細胞が十分に粘液を出して腸内にぬるぬるした腸粘膜を形成したところに、細菌が棲みつき、その活動で出た成分をお互いにやり取りするのです。この腸粘膜がなければ、実は腸壁細胞と腸内細菌は互いの生存をかけて傷つけあうことさえ起こりうるのです。
生まれて間もない赤ちゃんの腸内はまだ未熟で腸や腸粘膜の形成がまだ不十分だったりします。それを補うのはお母さんからもらう母乳で、母乳は腸の細胞を育て、また腸粘膜の形成を促進します。こうして外界からの侵入者の危機にさらされている赤ちゃんを守ってくれているのです。
参考資料
粘膜バリアによる腸内細菌と腸管上皮の分離
大阪大学大学院医学系研究科免疫制御学
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890731/data/index.html