数ある要因の中で注目されているもの

内的要因と外的要因のどちらも、「患者ひとりひとりが複合的に持ち、アトピー性皮膚炎を発症している」と考えられています

しかし、中でも特に注目されているのが、内的要因で挙げた「免疫の問題」です。では、簡単に免疫の仕組みを解説していきます。

 

[アレルギー反応の発端は異物の侵入]

そもそもアレルギー症状の発端は、体内への異物の侵入です。ここでいう異物とは、たいてい私たちの目には見えない小さなもので、私たち自身では侵入を防ぎきれません。

しかし、このようなミクロのものでも、放っておくと後々体に害を及ぼすものもあるため、私たちの体に備わる「免疫系」というシステムが、体内を常に監視しています。対処が必要な異物が確認されれば、免疫系は私たちの意志に関係なく、自動的に体内で対処してくれているのです。

さらに、発見した異物を単に処理するだけでなく、その異物のデータまでを取っておくような、いわば学習機能があります。この機能により、繰り返し入ってくるようなものや対応を急ぐ必要があるものが確認されると、より効率的な対応を始めます。

この効率的な対応というのが、「異物の型を取って血中に流しておく」というものです。こうしておくことで、次にこの異物が侵入してきた時には、型が異物にくっつき、免疫細胞への連絡と異物への処理をほぼ同時に開始させ、すばやい対処が可能になります。

ところが、このシステムには問題点もあって、時にこの自動的な処理が過剰になったり、免疫系の様々な経路を誤動作させたり、悪循環させたりしてしまうことがあります。これが、アレルギー症状となります。

 

アレルギーの1つであるアトピー性皮膚炎でも、最初のきっかけは「異物の侵入」だといえます。しかし、異物が侵入しただけでは、症状は起きません。前述したように、免疫がその異物の処理を過去に経験し、その情報から最初よりも強力な対応策が必要だと判断した結果、アレルギーが発症するのです。

 

[免疫の中枢が判断する異物への対処方法]

では、免疫の判断とは具体的にどのように行われているのでしょうか。

私たちの体内に最初の異物が侵入した時、これを処理するのは多くの場合、異物を食べてしまう免疫細胞です。この細胞は体の中を常にパトロールしていて、異物を見つけると食べて機能しないようにしてくれます。

このような仕組みを「細胞性免疫」と呼びますが、人間以外でも多くの多細胞生物に見られるものなので、「自然免疫」の1つとしても数えられます。

 

細胞性免疫が異物を処理した後、免疫の中枢には異物の情報が集められ、その情報の中にしつこかったり危険な異物が確認されれば、それに応じた対抗手段が準備されます。

 

免疫の中枢とは、脳や体の各部に存在するリンパ節などが神経を介して連携したかたちとなっています。リンパ節や胸腺といった器官には、免疫の司令塔として働く細胞が集まっていて、届いた異物の情報に応じ次の侵入に向けた体制作りをしています。

 

異物に対抗する体制作りに関わるこれらの細胞は、免疫の判断決定の一端をも担う重要な存在ですが異物に対して取る手段の違いで大きく2種類のタイプに分けることができます。

1つは先ほど述べたような細胞性免疫による処理を、もう1つは異物の型を用いる方法を取る傾向があります。異物の型というのは「抗体」というタンパク質で、抗体を用いる免疫のことを「液性免疫」と呼びます。

 

司令塔として働く2種類のタイプの細胞たちは、ほぼ同等の勢力を持ちながら互いに拮抗しあう関係にあり、届いた情報によって細胞性免疫か液性免疫かの判断を下し、正常な免疫反応で体を守ろうとしているのです。(詳しくは、第3章「『きれいすぎる環境』が、免疫の司令塔を偏らせる」で解説します)

 

[免疫の司令塔の偏りがアレルギーを招く]

ところが近年の研究で、アレルギー症状を持つ人の多くは、この司令塔として働く細胞の勢力バランスに偏りがあることが分かっており、これがアレルギーの発症しやすさの根本的な原因になっていると考えられています。

つまり、拮抗しているからこそ適切な判断ができるはずだった両者のバランスに偏りが生じて、その結果、「液性免疫」ばかりが選ばれやすくなりアレルギーを発症し、またその度合いも激しくなりやすいと考えられているのです。

 

さらに、免疫の中枢には異物処理における情報も届けられます。捕らえた異物をどのくらいやっつけたか、今どんな状況かという情報です。この情報から反応の程度を加減しながら、やがては収束させていくのですが、勢力バランスの偏った免疫系では、このような状況に応じた調整もされにくくなり、終わるはずの免疫反応がいつまでも繰り返されてしまうと考えられています。

 

液性免疫は、抗体を使って炎症を起こし異物を処理するため、時として異物以外の部分まで炎症がおよび害されてしまいます。その度合いが強くなれば、異物処理どころか自分自身の体が傷つくことになり、これがアレルギー症状となります。

炎症が繰り返されていくと、その部分の神経も過敏になり、傷ついた組織の修復も間に合わなくなっていきます。弱くなった患部は、さらに新たな異物の侵入や刺激を受けやすくなり、さらなる対処が必要になってきます。

 

こうした悪循環がアトピー性皮膚炎になっていくと考えられているのです。実際、多くの患者の血液や患部を調べると、抗体や炎症物質だけでなく、炎症を起こす仕組みが二重三重になり、激しい痒みと慢性化を招いているのです。

 

免疫の仕組みについては、いまだ多くの謎が残されており、アトピー性皮膚炎でも多くの要因が複雑に絡んで起きていると考えられています。

しかし、その最も根源的な原因として、「免疫そのものの判断の偏りにある」と、多くの医師や研究者が考えています。

タイトルとURLをコピーしました