アトピー性皮膚炎の発症メカニズムには、実に多くの細胞や神経、分子が関与しています。なかでも、最も中心的な役割を果たしているのが「免疫細胞」という細胞です。免疫細胞とは、その名のとおり、免疫、つまり自分と他者を見分け、排除するしくみのために働く細胞です。免疫細胞は系統的には血液を構成する細胞と同じで「白血球」とも呼ばれ、血液成分に混ざって血液内を循環したり、必要な箇所に定着したりして体を守るために働きます。免疫細胞の働きのおかげで私たちは細菌やウィルスなどの見えない脅威に対して特に意識しなくても健康を維持できるのです。
ところで免疫細胞にも多くの種類があり、それぞれに対応する敵や分子が違ったり、攻撃排除の方法が違ったりしています。どんな免疫細胞がどれくらいあるかは個人個人で異なっていて、遺伝子に刻まれていたり、脳や神経を介して受け取った情報をもとに免疫細胞が生産され、それぞれが特有の免疫細胞バランスをもつことに繋がると考えられています。私たちの体には、一人ひとりが、どこで、どんな状況に生きているかを敏感に感じ取り、体を守る免疫細胞の構成バランスも柔軟に変化させ、強く長く生き延びさせるためしくみが備わっているのです。
しかし、一方でこの柔軟な免疫細胞のバランス変更が、様々な理由で健康とは反対の方向へと向かってしまうことがわかっています。ガンや白血病をはじめ、難病といわれる多くの病気が、免疫細胞の異常によって起きています。
アトピー性皮膚炎の根本原因も、この免疫細胞のバランスが関わっていると考えられています。とくに免疫細胞のひとつである「T細胞」のなかの「ヘルパーT細胞」という細胞がそうです。ヘルパーT細胞にもさらにいくつもの種類があるのですが、このうちヘルパーT細胞Ⅰ型と、Ⅱ型の量的バランスがアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー全般のなりやすさ、つまり体質の根源であると考えられています。
さらに、皮膚組織に存在する免疫細胞もアトピー性皮膚炎では注目されています。皮膚は、体が外部環境と直接触れる器官ですから、重要な働きをする免疫細胞が多く存在しています。なかでも、炎症に直接かかわるものとして「肥満細胞」が有名ですが、肥満細胞ももとはといえば血中を流れて皮膚組織に定着したものです。ほかにも外部からの侵入の情報を伝える樹状細胞やランゲルハンス細胞といった、情報を仲介する免疫細胞も皮膚には多数存在します。さらに、皮膚炎が起きている患部には、好酸球や好塩基球という免疫細胞もやってきていて、さらなる炎症に関わっていることも確認されています。
このように、多くの免疫細胞がアトピー性皮膚炎には関わっていて、これらの過剰な働きが、終わらない炎症をおこしていることがわかっています。免疫細胞の存在とその働きについて把握することがアトピーに立ち向かうとき、最初に必要になる知識だといえるのです。