第4章 「食べる」の進化
7:食べ回し〜生態系を構成する3つの立場(1406)
原生生物に始まり、細胞は真核細胞へとかわり、真核細胞は多細胞生物へと進化しました。
これらの生物はそれぞれが様々な栄養形態を独自にもっています。
中でも生物に不可欠な炭素をどう獲得するかで、栄養形態をわけグループ区分してみると、大きな生物間の違いが見えてきます。
自分で無機物から炭素を獲得することが出来る生物を独立栄養生物、必要な炭素を外部から取り込んで栄養にする生物を従属栄養生物、として分けることができる、と前述しました。(第1章を参照)
さらに、その合成方法まで見てグループ分けをすると、光合成能をもち自分で栄養分もエネルギーも作ることができる生物は、「光合成独立栄養生物」と呼ばれます。主に葉緑体をもつ緑色植物はこれに属します。
しかし、光合成能を持っていても、炭素固定をできないものもあります。そうした生物は「光合成従属栄養生物」と呼び、エネルギーとして太陽光を使いますが、炭素としては他に頼っています。これらは主に、紅色非硫黄細菌、緑色非硫黄細菌です。
続いて、光合成能を持たないが、体内にもつ化学反応のしくみで無機物から炭素を固定し、エネルギーの産生もできる生物がいます。このような生物を「化学合成独立栄養生物」といいます。このグループの生物も主に細菌です。
最後に、光合成を持たず、もっぱら外部から栄養分を調達し、体内で必要なエネルギーや炭素を得て再合成して生きている私たちのような生物を「化学合成従属栄養生物」と呼びます。
植物以外のほとんどの生物はこのグループに属します。(カビやキノコなどもこのグループに属し、系統的には植物よりも動物に近いとされています。)
これらの違いは、その生物がどこで生き、何を得易かったかで、獲得してきたものです。
実に多種多様な栄養経路の獲得で、地表や海底など、地球の表層のほぼすべての場所に生命は存在しています。
しかしどの場所に棲むにせよ、地球の熱収支によって表層を循環する成分や、海水中にしみ出す成分を利用しているに過ぎません。だからこそ、生命の主な栄養は、炭素、酸素、水素、窒素、ミネラルなのです。
どの生命にも必要な基礎的な元素、これを生命元素と呼びます。
このように共通の成分をもちながら、これだけ多くの生物がなぜ同時に存在することができるのでしょう。
それは生物ごとに、必要な栄養の形を変えて持っているからです。
同じ炭素でも、大気中にある二酸化炭素を取り込んで、利用できるもの。その生物が取り込んだ炭素を、利用するもの。
栄養をつくるものがいて、それを食べるものがいて、またそれを食べるものがいる。
こうして、最初に二酸化炭素だった炭素は、食べた生物の体を順繰りに回されて行くことになります。
このようすを「食べ回し」と呼びます。
二酸化炭素に限らず、生物に必要な栄養は、栄養を作り出せる生物を起点に、食べ回すことで、様々な生物たちの体を巡って行きます。種も姿も違う生物でも、同じエリアに棲むものは、この食べ回しのどこかに必ず参加しています。
しかし、この食べ回しには、順序があります。植物を食べる動物、その動物を食べる肉食動物、あるいは、植物も動物も食べる雑食動物の順です。
動物がもつ食性によって、食べて食べられることで、数珠つなぎに繋がっている生物と生物の関係を、「食物連鎖」といいます。
生物ごとに食べ方、食べ物の違いがあることが、食物連鎖をうみ、食物連鎖が、同じエリアに複数の様々な生物が存在することを可能にしているのです。
また、生物のありようもふくめて、生態系と呼んだりもします。
生態系は、とかく「食べる」「食べられる」という食物連鎖の構図が中心になりがちですが、実は非常に重要な役割をもっている、もう一つの立場があります。
食物連鎖は、有機物を合成できる生物、たとえば陸上の生態系で言えば、植物がありますが、これを「生産者(2)」と呼びます。
さらにこれを食べて生きる生物を「消費者(3)」といいます。場合によっては、もっぱら植物ばかりを食べる生物を一次消費者、さらにその生物を捕食する生物を二次消費者、などと呼ぶこともあります。
これらの消費者は、生産者を食べるだけ食べておしまいのように思いますが、実は、その死後、その体をエサとする生物もいるのです。また、消費者の残すフンもそうです。消費者の体や、そのフンはその名のとおり多くの栄養を消費した結果できあがっていますから、高い栄養価があります。これを栄養とする生物を「分解者(4)」といいます。
分解者には、ミミズなどのような物理的分解者と、腐敗菌や土壌菌などの化学的分解者があり、最終的には、無機質になります。こうして、地球の成分へと帰るわけです。
こうして、地球の物質循環に合流しているのです。
地球レベルの巨大な物質循環サイクルのなかで、生きるのに必要な炭素、窒素、リン、水素、酸素やその他のミネラルをちょっと拝借し、「食物連鎖」という小さなサイクルでやりとりしているのが、生物なのです。
細胞に必要な物質が共通しているからこそ、できるサイクルです。
第4章 7:食べ回し〜生態系を構成する3つの立場
