私たちの体は多くの細胞からできています。細胞が集まり、組織を作り、さらに組織は器官をつくり、互いに接続したり、連携して、体を作り上げています。このように多くの細胞が集まり、高度に発達したことによって、私たちは、過酷な環境でも生き延び、子孫を残し、なおかつ長く生きることができるのです。
これらの組織や器官は、一定に見えて、実は常に生まれ変わっています。組織や器官を構成する細胞は、ずっと同じものが使われているのではなく、一定の寿命が来ると死んで行きます。そして、新しい細胞がそれと入れ替わり、組織や器官の機能を維持しているのです。生物がその一生を終えるまで、このような細胞の入れ替わりは行われ続けます。これを「新陳代謝」といい、生物は新陳代謝を繰り返すことで、生命を維持しているのです。
さて、生命活動の最も基本となる細胞の活動や新陳代謝を行うには必要な材料があります。水や、光、また、空気中や土壌に含まれる酸素や炭素や窒素、ミネラルだったりします。さらに、これらが細胞で利用されるには、それぞれの細胞に適した分子構造である必要があったりもします。細胞を多く持つ生物ほど、必要な材料の量も種類も多くなる、といえるのです。
しかし、一方、多くの細胞や組織同士が連携する私たちの体内では、それらが互いに互いの必要な材料を補うような仕組みも備わっています。つまり、細胞の維持に必要な材料を、限られた材料から自分で合成し、活用するしくみも持っているのです。このような多機能な構造は、厳しい環境変動や生存競争、そして突然変異などを経て、「進化」してきたことで獲得したものです。生物は、それぞれが独自に進化を遂げることで、多くの種に分岐してきました。また、「進化」はかならずしも、機能を獲得するばかりでなく、手放すこともあります。例えば、環境から容易に得ることができる材料については、もはや自分の体内で生成する必要はなく、これを割愛して、別の機能を発達させたものが、より生存競争に勝ち易くなります。こうして一度は手にした機能を手放すことを「退化」と呼んだりしますが、生物の構造や機能は足されたり引かれたりしながら、環境の変化に伴い、その場でもっとも有利なものが残ってきたのです。
私たち人間の体も、多くの変化を経て、今の姿に至りました。多くの困難と戦ってきたであろう、その道筋は、日々進歩する遺伝子研究などによっても、明らかにされつつあります。
一方、医学分野では、人類が獲得したこのしくみを、より有効に活かし、健康を維持し、長寿に繋げるための研究がされ、様々な発見がされています。中でも、体を維持するために必要な材料を取り込む作業である「食」のあり方が、大きな要素となっていることは明らかで、現在、生命活動の根幹である細胞活動から観察し、どんな成分が人間には必要なのかが研究されています。
私たちはどう食べればいいのでしょう: 2013:わいずでぃっしゅ献立講座テキスト
より抜粋
プロローグ:体をつくる多くの細胞のために
