小腸 〜アレルギー症状の改善と悪化にもカギとなる~

[消化吸収の場でありT細胞を育てる場でもある] 

胃で溶かされ柔らかくされた食べ物は、続いて小腸へと送り込まれます。小腸はおよそ6メートルほどの長いチューブ状の器官ですが、筋肉に覆われ収縮した状態で3メートルほどになります。小腸での悪玉菌繁殖がアレルギーの悪化を導くとして近年注目されているため、詳しく解説していきます。 

小腸は形状や役割からさらに3つの部位、十二指腸、空腸、回腸に分けることができます。 

十二指腸は小腸の入り口の25センチメートルほどの部分で、腸液や膵液、胆汁が分泌されることで胃酸を中和し、食べ物の分解をさらに進めます。口から入った食べ物は分子レベルにまでなっていき、もはや元の姿の片鱗はなくドロドロの状態になります。 

十二指腸の腸壁には、絨毯の毛のようにびっしりと絨毛があり、蠕動運動によって粥状の食べ物を押し流しながら、絨毛の1本1本が食べ物の中に入り込み、栄養となる分子を選択的に吸収します。 

短い十二指腸をくぐったあと、続く空腸と回腸の管内にも無数の絨毛があり、粥状の食べ物からの吸収が引き続き行われます。十二指腸は膵液や胆汁を分泌することで食べ物を徹底的に細かくしますが、あまり吸収はできません。その任は続く空腸と回腸に、主に任されることになります。 

空腸での栄養の吸収量は特に多く、回腸の終わりのほうでは小腸での吸収過程も仕上げに入り、絨毛の数も減少していきます。 

絨毛の中には毛細血管やリンパ管が張り巡らされ、ブドウ糖やアミノ酸は毛細血管から、脂肪酸とグリセリンはリンパ管から吸収されます。 

また、パイエル板をはじめとする免疫器官もあり、内容物を監視し素早く対応できるようになっています。 

実はこのパイエル板を含む腸の免疫器官こそ、T細胞の訓練場に他なりません。ここで腸の内容物から刺激を受けることによって、T細胞が活性化され、Th1/Th2バランスの補正に繋がると考えられているのです。 
[小腸と菌] 

小腸の働きは、腸壁の細菌叢がしっかりと形成されて初めて正常に機能します。小腸内での菌の働きについて解説していきます。 

胃でたいていの菌が殺菌されるので、十二指腸に菌の流入の可能性は低くなっています。 

また、十二指腸では胃酸を中和する腸液が分泌されますが、胆汁の殺菌作用があるため、菌は通常あまり生きられません。 

空腸でも胆汁の効果は効いていて、菌の増殖は抑えられています。どんどん内容物を送り出し空っぽにするため、菌が定着しづらいといえます。 
このように十二指腸と空腸では菌の数はあまり多くなく、棲みつくことができる菌としてはラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ヴェイオネラ(Veionella)属や酵母などがあります。 

そして回腸ですが、この次に続く大腸に備え胆汁の回収が行われます。すると菌の数はぐっと増えていきます。十二指腸や空腸で内容物1グラムあたりに約1万個ほどだった菌数が、回腸では1グラムあたり10万〜1千万個ほどになるとされています。 

十二指腸と空腸にいた菌に加え、大腸で多く棲息するバクテロイデス(Bacteroides)、ユーバクテリウム(Eubacterium)、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)やクロストリディウム(Clostridium)などが混在しています。 

 

このように同じ小腸の中でも、場所によって役割や棲みつく菌に違いがあることが分かっています。これは細菌ごとに生きやすい条件が微妙に異なるからです。 

もっと大きいくくりで見ると、腸内細菌はたいてい腸の中でしか生きられないものがほとんどです。腸内であれば、どんな生物の腸でも生きられるというものもありますが、限られた生物の腸にしか棲めない菌もいます。 

生物の腸内という場を生息域に選んだ彼らは、その場の持ち主つまり宿主ですが、この宿主が生き続けることこそが生存の場を維持することになります。ですから、腸内細菌には宿主の健康に貢献する役割を持つものが少なくありません。 

人間の小腸の細菌叢も内容物の中に混ざりながら代謝活動をし、健康に貢献する様々な生成物を出しています。その代表的なものとして、ビオチンなど小腸で生成されるビタミンB群が挙げられます。腸内細菌と私たちの体は持ちつ持たれつの関係にあるのです。 
[小腸内の悪玉菌繁殖がアトピー発症に繋がっている] 

しかし時として、この細菌叢が弱体化してしまうことがあります。特に抗生物質の服用などで細菌叢を構成する善玉菌が死んでしまうと、細菌叢バランスが大きく変化し、腸管壁をカバーするように厚く覆っていた細菌叢は薄くなり、悪くなると腸管壁がむき出しのような状態になってしまいます。 

このような状態では小腸内の環境は悪化し、本来いなくてよい菌が入り込んできたり、勢力が抑えられていた菌が一気に繁殖しはじめます。日和見菌から悪玉菌に変わるものも現れ、アレルギー発症の原因になっていくと考えられています。 

必ずしも抗生物質を服用しなくとも、例えば小腸の善玉菌のエサになるものが不足したり、善玉菌を殺してしまうような化学物質が頻繁に入ってくる場合、また、悪玉菌のエサが豊富である場合でも、少しずつ進行すると考えられています。 

つまり消化管を流れる食べ物の質次第で、腸内環境は変わってしまうのです。 

現代の食生活には悪玉菌の好む食品がたくさんあります。悪玉菌が異常繁殖すると、生成された毒素によって腸内細菌叢の厚さはますます薄くなり、腸管壁は傷つきやすくなります。傷ついた腸管壁はアレルギー発症の可能性を高めてしまいます。 
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