大腸 〜過剰な免疫反応を抑える大腸内発酵~

[制御性T細胞を育てる大腸] 

小腸を経て来た食物は、次に大腸に送られます。小腸を通過する間に大半の栄養、例えば糖質、脂質、タンパク質など代表的な栄養分はほぼ体内へと吸収しつくされているので、大腸に到達する食物の成分はほとんど食物繊維だけになっています。栄養的にはほぼ役目を終えている食物ですが、大腸にはこの食物をさらに利用する仕組みが備わっています。 
大腸では食物に含まれる水分や電解質の吸収が行われます。また、小腸に比べてはるかに多くの菌が棲息していて、食物に含まれる食物繊維やオリゴ糖を利用して生きています。その活動により、酢酸やプロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸(※)、そして僅かですがビタミン類も生成、体内へと吸収しています。 
 

※脂肪酸:油脂を構成する成分の1つで、数個から数十個の炭素が鎖のように繋がった構造をしています。そのうち炭素の数が6個以下のものを短鎖脂肪酸と呼びます。 

腸管免疫として働く細胞や組織もあり、消化過程の最終段階とはいえ、非常に重要な器官です。 

大腸の仕組みで特徴的なのは、大腸内での発酵で得られた短鎖脂肪酸が直接、大腸上皮細胞の主要エネルギー源として使われることです。大腸の細胞は短鎖脂肪酸を得ると、水や養分の吸収、腸運動などの重要な働きをすることが可能になるのです。生成される短鎖脂肪酸が少ないと、大腸細胞は充分なエネルギーを得られず、大腸の動きも停滞しがちになります。 
また、短鎖脂肪酸は大腸のためだけでなく、全身の免疫機構でも重要な働きをします。特に注目されているのが免疫反応のブレーキとして働く制御性T細胞の働きを高める作用です。 

制御性T細胞は過剰なアレルギー反応を抑制する働きを持つと考えられていて、特に酪酸によって活性化されることが分かっています。難病とされる炎症性腸疾患を起こしたマウスに実際に酪酸を与えると、制御性T細胞が増え症状が改善したという研究結果もあります。 

食物繊維を十分に摂り、大腸内発酵によって短鎖脂肪酸が生成されることは、免疫の上でも非常に重要なのです。さらに大腸では小腸ほどの量ではありませんが、ビタミンの生成や吸収も行われています。 
[大腸の健康には食物繊維が不可欠] 

近年、大腸ガンの発症が増えていますが、食物繊維が不足した食生活が原因の1つになっていると考えられています。しかし、ガンになる前に食物繊維が足りない食事の習慣化は、便が出にくくなる「便秘」を招きます。 
普通、食事をすれば消化管にはものが入っていくので、それが出ないと中に溜まっているということになります。特に大腸内はその名の通り大きく、小腸よりは動きが緩慢で内容物を貯留する働きもあります。 

しかし、食物繊維をあまり含まない内容物がいつまでもあっても、本来行われるはずの発酵がされず、善玉菌の働きは弱まります。大腸は働くためのエネルギーを得られず、細菌叢では善玉菌にかわって悪玉菌が勢力を拡大してきます。 

これらの働きによって生成される様々な成分が、病気や不調の原因となっているのではないかと考えられています。 
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