運動とストレス発散についての研究論文

「アトピー考察ノート」第5章より抜粋

2)活動・運動

運動とストレス発散についての研究論文
 上記のように、体の成長と修復を行う眠りは皮膚の健康においても非常に重要です。しかし、単に睡眠が大切といっても、なかには寝付きの悪い人や眠りの浅い人もいて、同じ眠りでもその質は人によって異なっています。実はスムーズで深い眠りを得るには、それを導くための脳内の疲労物質がある程度たまっている必要があります。日中、充分に活動をすると、その活動量に伴った疲労物質が脳にたまり、夜になると自然に休息体制に導いてくれます。疲労物質をためるには筋肉運動が一番効率的で、デスクワークばかりでは、あまり健全な疲労は得られません。
  さらに、筋肉運動はストレスなどによる精神的なダメージからの回復にも寄与していることが解っています。それも、さほど激しくない運動でその効果が得られるとされていて、とくに良いとされるのが、ウォーキングや、軽いジョギング、サイクリングなど、同じ動作を一定のリズムで繰り返すような運動です。このような運動を行うと、脳内ではセロトニンというホルモンが分泌されます。このホルモンはストレスによる精神疲労を緩和する作用があり、心の安定を維持するうえで重要であると考えられています。気軽な運動は、入眠のための疲労物質だけでなく、ストレス緩和のための脳内ホルモンの生成にも繋がっているのです。運動には種類によって屋内、屋外の違いがありますが、その都度気分にあわせて場所やメニューを選ぶと、気晴らし効果もあってオススメです。

よい汗は抗菌ペプチドの生成にも繋がる
 乾燥して皮膚バリアが充分でない皮膚では雑菌が繁殖しやすく、それがアトピーの原因のひとつと考えられている、ということをご紹介しました。では、具体的にどう充分でないのでしょうか。
 アトピー体質の皮膚の乾燥の原因については、まず皮脂の分泌量の少なさが挙げられます。皮脂は汗とまざり、皮膚上を覆います。これがいわゆる「皮脂膜」とよばれるものです。皮脂膜表面は空気にさらされ、弱い酸性を帯びています。この酸性であることが、黄色ブドウ球菌などの悪玉菌の付着を防ぐ作用を発揮します。さらに皮脂膜はヒトの皮膚に棲む常在菌のエサになり、その生成物も混ざることで皮膚の潤いを保護する役割を強めます。皮脂の分泌量が少なく、皮脂膜形成力の弱いアトピー肌では、皮脂膜のもつ抗菌と潤い保護の作用が受けられず、これが雑菌の繁殖につながっているのでは、と考えられているのです。
 さらに、近年、アトピーにおいては皮脂膜に含まれる「抗菌ペプチド」と呼ばれる成分の少なさにも注目されています。抗菌ペプチドは、ほぼすべての生物がもつ自然免疫として働く成分のひとつですが、名前のとおり、敵となりやすい微生物から身を守るために分泌する成分です。この成分は私たち人間の体でも生成・分泌されていて、皮膚の保護にも利用されています。さて、この抗菌ペプチドは主に汗に含まれており、発汗によって皮膚上に分泌され皮脂膜形成に加わるのですが、ある研究ではアトピー体質の人の汗にこの抗菌ペプチドが少なかったことが報告されています。関節など汗のたまりやすいところにアトピーの炎症がおきやすい理由として、抗菌ペプチドの少なさは非常に注目されていますが、一方で、じんわり滲むような汗ではなく、スポーツなどで多量の汗を日頃からかくようにするとアトピーが軽減する、という臨床医もいます。たしかに、安静時と運動時では分泌される汗の量も成分も少し違います。分泌される成分に着目した、「良質な汗」をかくための運動や、栄養摂取が今後研究されるようになるかもしれません。

【Column】よい睡眠には、運動とおしゃべり
 活動とは必ずしも運動だけではありません。もちろん、運動による筋肉疲労は、睡眠を招き易いのですが、人と会っておしゃべりすることも脳内の酸素を使って疲労をもたらしますから睡眠にはいいでしょう。 しかし、顔など目立つところにアトピーが出ている時期は外に出るのも億劫になるし、人に会うのも気が進まなくなります。
 また、患部の悪化を防ごうと積極的に汗をかくことは控えたいと考える人もいるでしょう。室内にいることが多くなると、活動量も減って睡眠にも影響する事が多くなります。アトピーには睡眠が必要なのに、睡眠を得られにくい生活に陥りがちなのです。
 さらに、部屋にこもりがちになると、くよくよと思い悩む傾向が強くなってしまがちです。私も経験がありますが、とくに夜はとりとめもなく不安だけが暴走するような思考になりやすい、と言われています。そんなときは、思い切って一旦考えることをやめてしまい、夜が開けてから問題の正体をしっかり捕らえて取り組んだほうがいいでしょう。人間はどうしても考えたい動物なので、わざわざ悪い方に考えがちです。
 アトピー克服を目指す過程で心や思考のコントロールもできるようになれば、その後の人生で出会う危機に対しても正しく向き合える、と思うのです。

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