旧:セルフケアの実践① 神経バランスを整える
アトピー性皮膚炎の痒みには神経の働きやそのバランスが大きく関わっています。神経系には中枢神経系と末梢神経系があり、とくにアトピー性皮膚炎では末梢神経系のひとつ自律神経の働きが弱くなっていたり、偏っていたりすることによる炎症の起きやすさがベースにあると考えられています。また、中枢神経系で発生するかゆみも関連していることがあり、こうした神経の働きをきちんと知ることがまず重要になります。
自律神経とアトピー性皮膚炎
自律神経バランが乱れると様々な症状が表れますが、「免疫の敏感さ」もこれに起因していることがあり、自律神経はアトピー性皮膚炎の「真のメカニズム」に関わっている可能性があります。
ところで、そもそも自律神経バランスが乱れている、というのはどういう状態のことなのでしょうか。自律神経の本来の役割とは、生物が「一生」として与えられた時間のなかで、誕生から成長、生殖という生物活動を、地球のリズムに合わせて、活動と休息を繰り返しながら行うのを支援することにあります。ですから、自律神経の働きというのは、地球のリズムすなわち1日24時間を1区切りとし、その中で、交感神経と副交感神経が、生物の置かれている環境や行おうとする活動に合わせたモードに適宜配分を変えながら、総合してその力関係は同等になるようになっていることが理想なのです。この1日を通したバランスが、たとえば交感神経のほうが極端に強くなっていたり、あるいは副交感神経が極端に強くなっていたりすると、それぞれが導くモードの状態が極端に強くなることになります。自律神経が属する神経系は、内分泌系や免疫系とも連動していますから、ホルモン分泌や異物の排除に関するバランスも偏ることに繋がっていきます。これらのバランスの偏りは、どちらの方向に転んでも、最終的に過敏性や炎症の起きやすさに繋がり、アトピー性皮膚炎を導く真の原因になっていることがあるのです。
自律神経バランスの基本的な整え方
では乱れた自律神経バランスはどのようにすれば改善できるのでしょう。前述したように、自律神経の最も基本的な役割は、生物の生活リズムと地球のリズムを同調させることにあります。その本来の状態に近づけること、つまり日の出とともに起きて動き出し、日の入りとともに休息に入ること、太陽光の有無に合わせて生活モードを切り替えることが、自律神経バランスを整える最も簡単な方法です。
しかし、そうは言っても、現代社会に生きる私たちには、このような生活へと急に切り替えることは難しいことです。仕事や学業のためには昼も夜も活動し続けなければならないときがありますし、人によっては昼夜の活動と休息の時間帯が本来と逆転している人もいます。生活環境や与えられた役割のためには、太陽と同期している場合じゃない人だって大勢いるのです。そのような場合、自律神経バランスの調整はどうすればいいのでしょう。
光の刺激のコントロールや軽い運動がポイント
自律神経のバランス調整で大きなポイントとなるものに、光の刺激のコントロールがあります。自律神経において光の刺激は絶大は威力をもちます。ブルーライトのような、本来太陽光にしか存在しない波長の光を夜見て、その刺激が脳に入ることは、副交感神経の働きが強い夜に、一気に交感神経の働きを強めてしまい、交感神経と副交感神経の本来あるべきバランスが崩れてしまいます。光の刺激をコントロールすることは、自律神経を整えるうえで大きな要素なのです。
さらに光の刺激をコントロールした上で、肉体と精神における疲労のバランスの悪さについても補正する必要があります。現代人の日常は基本的に運動不足になりやすく、一方、精神面はストレスを抱えやすくなっていて、肉体と脳の疲労度がまちまちになり、これもまた自律神経バランスを乱す要因になります。これを解消する方法として最も手軽な方法が、適度な運動を取り入れることです。運動はあまり過度なものではなく、程よい有酸素運動などが良いとされ、とくにジョギングやサイクリングなど一定のリズムを繰り返す運動が効果的とされています。このような運動は脳内でのセロトニンという物質の分泌を促し、精神的なストレスによって自律神経の働きが偏ることを抑えてくれます。
呼吸で自律神経自体の働きを活性化させられる
そして、もうひとつ注目したいのが「呼吸」の自律神経への作用です。呼吸とは、酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出す生理活動ですが、呼吸を管理しているのは脳で、私たちはふだん意識しなくとも自然に自発呼吸を行っています。脳には血液中の酸素や二酸化炭素の濃度によって呼吸や心臓の拍動を早めたり、ゆっくりにさせたりする機能がありますが、これは自律神経のモードを変えることで行っています。また呼吸という動作自体も、空気を吸って呼気を吐き出すという一対の動作に自律神経のモード切替が行われています。「吸う」動作には交感神経が、「吐く」動作には副交感神経が主に関わっているのです。このしくみを逆手にとって、本来意識的にコントロールできない自律神経のモード切替を呼吸を介して行おうというのです。とくに現代人は自律神経バランスが交感神経優位に傾きがちですから、「吐く」ことを意識しながらゆっくりと深く呼吸することで副交感神経の働きを活性化させることができるのです。また、肺の下にある横隔膜には自律神経が密集しているため、これを利用することもポイントになります。横隔膜は肺とその下の内臓を仕切っている膜ですが、姿勢や体内の状況に応じて柔軟に上下し、このとき横隔膜の自律神経も刺激されます。姿勢が悪かったり、運動が少なく、浅い呼吸しかしない毎日を送っていると横隔膜が動くことが少なく、自律神経自体の働きが低下しているときはそれが活性化される機会がなかなかありません。しかし、腹式呼吸で横隔膜が下がるところまで肺を縦に広げると、横隔膜の自律神経が刺激され、その働きを活性化させることができるのです。静かに深い腹式呼吸をしながら、心を落ち着ける「瞑想」は自律神経を活性化させ、副交感神経の働きを回復させることで、ストレスからくる様々な不調を改善するとして海外でも注目されています。
参考:東洋経済オンライン「疲れやすい人は「呼吸」の重みをわかってない」
神経系だけでなく内分泌系や免疫系も含めた調整には東洋医学が効果的
光の刺激や、運動、呼吸などによるアプローチは自律神経を整えるための基本的なものです。しかし、例えば、自律神経の乱れがホルモン分泌や免疫バランスの不調も伴ったものなら、基本的なアプローチだけでは自律神経はなかなか整ってくれません。そうしたときに頼りになるのが、鍼や灸、カイロプラクティックや漢方薬などの東洋医学的アプローチです。
鍼や灸は経絡、いわゆる「ツボ」というリンパや神経の要所を中心に刺激を与え、偏った神経活動やこわばった筋肉、筋膜を少しずつ補正していきます。またカイロプラクティックでは骨格のゆがみやねじれを補正することでそれによって影響を受けていた神経活動の補正を目指します。漢方薬は、主に自然界に存在する動植物などの構成成分を複数組み合わせて配合したもので、いまだその薬効メカニズムの完全解明はされていませんが、これまでの研究から腸内環境に作用することがわかっており、腸管免疫を介して様々な症状にアプローチできるのではないかと考えられています。
①すこし強めの活動と十分な睡眠で生活のリズムを取り戻す
・サイクリングやジョギングなど、単純なリズムを繰り返す運動がおすすめ
・交感神経と副交感神経のスイッチングタイムを大切にする
②スマホやPCなどのブルーライトを減らす
・光による脳への作用は深刻
③自律神経に作用するもの(呼吸法、鍼灸、漢方薬など)を取り入れてみる
・あなどれない呼吸の効果
・鍼の刺激
・合う漢方薬の選び方